すべての人にとって持続可能(サステナブル)な世界を目指すための国際目標、「SDGs」。

特集「カスタムライフ SDGs LIFE」では、そんなSDGsの取組みを行う企業や団体にお話を伺っていきます。

今回お話を伺ったのは株式会社榮太樓總本鋪の細田将己さん株式会社サーキュレーションの信澤みなみさん

持続可能な原材料調達のこだわりや、食品ロスの課題と対策について聞きました。

榮太樓總本鋪,SDGs
細田将己さん
◆株式会社榮太樓總本鋪/取締役副社長
マサチューセッツ州Bentley Universityを卒業後、1998年三井物産株式会社を経て2007年株式会社榮太樓總本鋪に入社。企画担当役員を経て2016年より副社長を務める。200年続いた伝統の味を守りつつ、江戸菓子を語る講演会などで講師を務めるほか、現代感覚の新商品開発にも力を入れる。
榮太樓總本鋪,SDGs
信澤みなみさん
◆株式会社サーキュレーション/ソーシャルデベロップメント推進プロジェクト代表
2014年サーキュレーションの創業に参画。「プロシェアリングで社会課題を解決する」ために、企業のサスティナビリティ推進支援・ NPO/公益法人との連携による社会課題解決サービスを行うソーシャルデベロップメント推進プロジェクトを設置。
榮太樓總本鋪,SDGs
信澤さん

今回は私がファシリテーターとして、細田さんにインタビューを行いました!

1. 榮太樓總本鋪が考える「つくる責任、つかう責任」

  • 榮太樓總本鋪,SDGs

信澤さん:榮太樓總本鋪さん(以下、榮太樓總本鋪)は創業から200周年のタイミングで新しい社是「心の豊かさに挑戦する榮太樓」を掲げられています。

私はこの“心の豊かさ”がサステナビリティが目指す本質的な姿と近しいと感じました。榮太樓總本鋪は"心の豊かさ"の実現に向けて、どのような取り組みをされていますか?

  • 榮太樓總本鋪,SDGs

細田さん:200年前から日本の中心、お江戸日本橋のたもとに屋台を引いて、焼き立ての金鍔(きんつば)を商っていたのが私たちの始まりです。

時代ごとに変化をしていくお客様の価値観に寄り添いながら、皆さんのおばあ様もお母様も美味しいねとご評価いただいてきた味を、東京の未来に繋いでいきたいと思っています。

榮太樓總本鋪は“美味しい和菓子”をつくる会社だからこそ、まずは作り手・売り手である私たちの心が豊かでなければ、お客様に満足していただけないと思っています。

そのために最も大事なのは、榮太樓總本鋪の“顔”でもある商品に対して、作り手・売り手が誇りを持つこと

200年前を振り返ってみれば、原料は今より貴重なものだったと思いますし、小豆や砂糖も決して安いものではなかった。
だからこそ、もっと原料を大切に使っていたはずだと思います。もちろん江戸時代のモノづくりに今さら戻れるかと聞かれたら、戻れるとは言えません。

ただ、少しでもいいので当時のモノづくりのエッセンスを今のモノづくりに取り入れることができれば、社員たちが胸を張って「榮太樓總本鋪の商品は良い」と言えるようになるのではないか、と思っています。

そのために、とことん原料にこだわり、なるべく香料や着色料などの添加物は使わない。

言葉ではよく聞くかもしれませんが、それを実際にやって、みんなで経験してみる。そんなモノづくりを目指しています。

役職を越えて参加するもち米づくり

  • 榮太樓總本鋪,SDGs

信澤さん:なるほど。どのような方法で「経験の場」を作っているのでしょうか。

細田さん:榮太樓總本鋪では、大福をはじめとする餅菓子には特別栽培米三ツ星「マンゲツモチ」を使っています。無化学農薬・有機肥料栽培にこだわる農家集団「おかげさま農場」と一緒に田んぼの一部をお借りして、社員一同もち米作りを行っています。

◆もち米づくりの様子

細田さん:もち米づくりは社長から販売員まで、役職を越えて参加します。

作業は江戸時代の農法にならい、機械を使わずにすべて手作業で行い、除草期間は2週間に1度のペースで田んぼに通う時期もあります。

大変な作業ですが、実際に経験することで、はじめて「自分たちが一緒に作ったもち米で出来た大福なんです」と製造スタッフも販売員も胸をはって言える。これが“心の豊かさ”に繋がっていくと、私は考えています。

そして、生産者さんたちのご苦労を知ることで、心に寄り添っていけるようになる。例えば台風が来たり、日照りが続いたり、そんな日々の天気予報を見るたびに「自分たちが作っているあのもち米は大丈夫だろうか」と気にかかるようになります。それが結果的に、SDGsの目標12「つくる責任、つかう責任」に繋がっていくはずです。

  • 榮太樓總本鋪,SDGs

信澤さん:「おかげさま農場」でのご様子、どれも素敵ですね。

社員の人たちが商品を売ること以上に、もち米づくりの経験を通じて自然環境や原料を身近に、そして自分ごとに感じるようになっている。

それこそがSDGsに対して、当事者意識を持って取り組んでいる、ということなんですね。

細田さん:はい。私たちは美味しい和菓子をつくりたいし、お客様には美味しい和菓子を届けたい。だからこそ、「この原料でなければダメだ」というこだわりがあります。

だからこそ、榮太樓總本鋪は生産者のもとまで足を運び、彼らが生産する原料の価値を直接伝えるようにしています。特徴があり美味しい原材料を手に入れるには、コストも手間もかかります。

原料の魅力を生産者に伝えることが、「つくる責任、つかう責任」に直結すると思っていますし、なおかつ私たちの“心の豊かさ”にも繋がってくると思っています。

2. 添加物を使わない「飴づくり」へのこだわり

信澤さん:榮太樓總本鋪さんは飴の専門ブランド「あめやえいたろう」の商品においても、なるべく添加物を使わないなど、すごく原材料にこだわられている印象です。

  • 榮太樓總本鋪,SDGs

細田さん:はい。榮太樓總本鋪は添加物を使わない飴づくりにこだわってきましたが、実は最後までできていなかったものがあります。フルーツキャンディ「果汁飴です。

どれだけ市販の苺パウダーを入れても、香料等の添加物抜きではなかなか苺味の表現は出来ませんでした。

飴に合う原料を研究していった結果、4〜5月に収穫できる露地栽培の苺が最も味が出ることが分かりました。そこで我々は、生食用に出回るサイズ以上の露地栽培の苺を潰してピューレ状にしてパウダー加工し、そのパウダーを大量に飴の中に入れたんです。

そうしたら、とても美味しい苺のフルーツキャンディができました。

価格は一粒30円。

一般的に売られているフルーツキャンディと比べると原価は数十倍高いのですが、そんな価格ではお客様のご負担になってしまいます。
そのため、価格は3倍くらいに設定しました。     

フルーツキャンディを、単なる飴ではなく「和菓子」として作っているからこそ、お菓子としてまっとうな原価をかけて、美味しいものをつくりたい。 

それが添加物を使わないものづくりの原点です。

3. サスティナブルな素材活用への挑戦

信澤さん:また、榮太樓總本鋪さんはプラスチック製だった包装を紙製に変更されています。何かきっかけがあったのですか?

  • 榮太樓總本鋪,SDGs

細田さん:きっかけはネスレ日本さんが、「キットカット」の外袋を紙製のパッケージに変更したことですね。

大手企業のネスレ日本がリードする形で紙製に切り替えたからこそ、菓子業界にもプラスチック製から紙製に変えていく流れが生まれたように思います。

和菓子に関しては、羊羹が竹の皮に包まれているように、本来は自然の素材に包装して提供するのが当たり前でした。

ただ、コストや効率性の観点からプラスチック製が普及してしまった。

それが脱プラスチック機運の高まりに合わせて、紙製のパッケージに変えていこう、という流れになっています。そうした背景もあり、榮太樓總本鋪も商品の包装を紙製に徐々に変更していきたいと考えています。

榮太樓總本鋪のひとくちようかんは、2021年9月から紙パッケージ化します。

  • 榮太樓總本鋪,SDGs

信澤さん:やっぱり和菓子は紙で包んであるのが似合いますね。懐かしい親しみやすさがあり、素敵です!

紙製パッケージに変更することのコスト

信澤さん:プラスチック製から紙製に切り替えるにあたって、どの程度の投資コストがかかったのでしょうか?

細田さん:この商品に関しては多少コストは上がりましたが、それでも販売価格を値上げしなくても何とか耐えられるレベルの上昇幅で済んでいます。

もちろん、会社として自然環境を意識してなるべく“無駄”は減らしたいと思っていますが、やはりコストはどうしても上がってしまう。

  • 榮太樓總本鋪,SDGs

私たちも含めてメーカーはコストを掛けてでも、社会の要請に応えるように変化していくでしょう。

それを単なるメーカーの「企業努力」で終わらせるのではなく、問屋さん、小売りさん、消費者の皆様にも、社会課題を解決するためには全体での協力が必要であることの理解を深めていただきたいと願っております。

4.  廃棄削減に向けた「賞味期限」への取り組み

信澤さん:食品業界はサステナビリティの観点から廃棄処理、賞味期限が課題になっていると思います。そんな課題に対して、榮太樓總本鋪はどのように取り組んでいらっしゃるのでしょうか?

  • 榮太樓總本鋪,SDGs

細田さん:榮太樓總本鋪では商品の賞味期限を従来よりも長めにつけるようにしています。

日本は食品の流通において「賞味期間の3分の1を経過したら小売店舗に納品できない」という、いわゆる「3分の1ルール」というものがあり、これが廃棄の原因と密接に絡み合っていると考えられます。

  • 榮太樓總本鋪,SDGs

ただ、海外のやり方に目を向けると、例えばアメリカの賞味期限表示は「Best before 〇月〇日」のような表現をされていることが多いです。

このような表現ですと、直訳しても「〇月〇日までは一番美味しく召し上がれます」ととらえられます。一方、日本語の「賞味期限」という言葉がもつニュアンスからすると、その日が過ぎると「もう食べることが出来ない」と、とらえられることが多く、結局家庭で廃棄されてしまう。

食品メーカーには「安全係数」という考えもあり、私たちの会社の場合では1年と賞味期限を設定する商品は1.5倍の1年半が経過しても食の安全性に問題はないと判断した商品です。

更に、生鮮食品は別ですが、加工食品では「この日付ぴったりにこの食品が食べられなくなる」ということはありません。

だからこそ、加工食品に関しては日付単位の表示ではなく月表示にして、なるべく食品ロスが出ないようにする工夫も必要と思っています。

5. 次の100年、200年をつくる企業になるために

信澤さん:榮太樓總本鋪は持続可能な企業経営をされてきたからこそ、200年も続いてきたのだとと思います。

最後に200年続いた要因、そして次の100年をどのように作っていきたいのか、を教えてください。

  • 榮太樓總本鋪,SDGs

細田さん:200年続いた要因は私たちがいつの時代も味に真摯に向き合ってきたこともあるでしょうし、単なるお金儲け以外に目指しているものがあるから。私はそう信じています。

社員の多くは「榮太樓總本鋪のお菓子は美味しいし、絶対に変なことをしない」と言ってくれるんです。こんなに嬉しいことはないです。

また、お客様も無条件に「榮太樓さんなら間違いないでしょう」と言ってくれる。そうした社員、お客様の思いに応えないわけにはいきません。

榮太樓總本鋪は東京が江戸から繋いできた食文化の、片隅ではありますが一端を担っている会社だと思っています。

だからこそ、私たちは江戸の和菓子を未来につなげる仕事をしないといけない。それが会社の社会的意義であり、伝えていかなければいけないことだと思っています。

  • 榮太樓總本鋪,SDGs

信澤さん:細田さんの話を聞いて、改めて榮太樓總本鋪さんのファンになりました。

今日はお時間をいただき、ありがとうございました!

榮太樓總本鋪について
公式サイト
公式Facebook

会社名  株式会社榮太樓總本鋪 https://www.eitaro.com/
代表者  細田 眞
設立   文政元年(1818年)
所在地  東京都中央区日本橋1-2-5
日に千両を商うと言われた日本橋魚河岸。そこに働く方々に愛され可愛がられた榮太樓は、江戸の皆様と共に育って参りました「江戸・菓子屋」です。

味は親切にありとの考えを大切にして、原料に吟味を重ね製法にこだわり、美味しさと品質を第一にお菓子をお届けして参りました。いままでも、これからも、お客様に安心して楽しんで頂けますよう、心の豊かさをお届け出来る「東京の美味」菓子作りに励んで参ります。

サーキュレーションについて
公式サイト
公式Facebook

会社名  株式会社サーキュレーション http://www.circu.co.jp/
代表者  代表取締役 久保田 雅俊
設立   2014年1月6日
所在地  東京都渋⾕区神宮前3-21-5 サーキュレーションビルForPro
「世界中の経験・知見が循環する社会の創造」というビジョンのもと、外部プロ人材の経験・知見を複数の企業で活用するプロシェアリングサービスを運営しています。

高い専門性を有するプロ人材の経験・知見をプロジェクトベースで活用頂くことで、 企業の抱える課題の解決、ミッションの達成を支援します。
15,000名以上のプロ人材のリソースから、企業の経営課題・業界・成長フェーズ・社風・経営における理念・思想を鑑み、企業に最適なプロ人材を選出、課題解決プロジェクトチームを組成します。登録している20代から70代のプロフェッショナル人材は、対面でのインタビュー(及び電話/skype)を実施し、独自の人材アセスメントにより、スキル・経験・志向性・人物について適正な評価・知見を蓄積しています。2014年設立以来、導入実績は 約2,200社/7,800プロジェクトを数えます。(2020年7月1日時点)