すべての人にとって持続可能(サステナブル)な世界を目指すための国際目標、「SDGs」。
特集「カスタムライフ SDGs LIFE」では、そんなSDGsの取組みを行う企業や団体にお話を伺っていきます。
今回お話を伺ったのは株式会社JTB企画開発プロデュースセンターの及川秀昭さんと特定非営利活動法人ジャパン・プラットフォームの村松直美さん。
中学生・高校生とNGO団体をつなぎ、社会問題について考える協働プロジェクト、「17 GOALs PROJECT」について聞きました。
宮城県仙台市出身。2002年株式会社JTB入社後、教育事業に従事。2016年より中国上海駐在。帰国後、JTB国際交流センターにてグローバル教育プログラムの企画運営。現職にてSDGs・探究学習を軸とした教育プログラムの企画開発を担務。
愛知県豊川市出身。米国系流通企業に13年勤務後、退職。ソーシャルセクターにもかかわるようになる。ジャパン・プラットフォームでは委託職員として、企業とNGOの連携事業、ファンドレイジングなどを担当。社会や環境へのインパクトが大きい「ビジネス」も敢えて学びなおしたいと考え、現在MBA取得に向けて勉強中。
Outline
1.ジャパン・プラットフォームとJTBのこれまでの取り組み
まずは「17 GOALs PROJECT」の中核を担うおふたりに、これまでの活動について聞きました。
▼NGO団体の活動を支援するプラットフォーム
ーさっそくですが、ジャパン・プラットフォームについて簡単にご説明いただけますか?
村松さん:ジャパン・プラットフォームは、自然災害による被災者支援や、紛争による難民の救済など、緊急時の人道支援を目的とする中間支援団体です。
NGO団体の活動をサポートしていくため、経済界や政府とNGO団体をつなぐ役目を担い、支援金の助成や物資・サービス等の提供を行っています。
- バングラデシュ・コックスバザールのミャンマー避難民キャンプ©JPF
村松さん:2000年発足以来、各得意分野を持つ加盟NGOとともに、総額700億円以上、1,800事業以上、55の国・地域を対象に人道支援を展開してきました。
ー今回、NGO活動の支援を中心に行うジャパン・プラットフォームがJTBと協働するきっかけはなんだったのでしょうか。
村松さん:多くの人が集まり、協力することにこそ、ジャパン・プラットフォームが存在する意味がある。
その点では、社会全体で協力し、取り組んでいくSDGsとジャパン・プラットフォームのミッションには共通するものがあると思い、SDGsの活動をしているコミュニティに、まずは個人で参加したんです。
そこにJTBの方がいらっしゃったのがきっかけ。
及川さん:JTBでも交流創造事業の一環として、SDGsのワークショップを学校や教育機関に提供していました。
村松さんの話を聞いて、自分たちの事業と親和性があると、プロジェクトが立ち上がったんです。
▼社会のリアルな課題に触れてもらいたい
ー交流創造事業とは、具体的に何をされるのでしょうか?
及川さん:旅行やツーリズムを通して、お客様が地球環境と向き合うお手伝いや、地域間の交流を発展させる取り組みを行っています。
なかでも教育分野では、教室の内外でSDGsについて学べるプログラムの提供が柱の1つ。
とくに今、学校では生徒が自主的に課題を見つけ、解決方法を考える「探究学習」が、学習要領に組み込まれています。
及川さん:探究学習で取り組むべきテーマは、日常生活や社会との関わりのなかで、自らの興味・関心に基づいて設定することになります。
しかし、学校生活だけだと、生徒は主に親や先生以外の大人との接点がなく、社会の現状や課題について考える機会が多くはありません。
私たちとしては社会との接点を増やして、リアルな社会課題を見せたいという想いがあるんです。
そこで私たちと関わりを持つ企業やNGOの活動を伝えられれば、生徒たちにとっても貴重な体験になるのではと考えたのがきっかけですね。
2.プロジェクトの活動内容は?
ー17 GOALs PROJECTの具体的な活動についてお聞かせ頂けますでしょうか?
及川さん:基本的には1年間という長期的なスパンで、中学生・高校生に社会が抱える課題について考えてもらうことを目標としています。具体的には、
1.有識者による、社会全般についての講演
2.NGO団体による実際の活動現場について講演
3.賛助企業のビジネス、CSRの取り組みや役割の紹介
4.研修旅行・修学旅行
5.1年間を通しての生徒の研究発表
といった流れで活動を行っています。
上記は1つの理想型ですが、それぞれの学校のリクエストに応じてオーダーメイドのプロジェクトを作ります。
例えば世界の貧困問題について学びたい、男女格差について教えて欲しいといった要望ですね。
JTBは日頃お付き合いのある学校にプロジェクトを紹介する役割を担っています。
今はコロナの影響で実現できていませんが、ゆくゆくは海外でのNGOの活動に触れる研修旅行も実施したいです。
村松さん:ジャパン・プラットフォームの役割としては、学校側のニーズに合ったNGO団体や賛助企業のマッチングをしています。
- ⒸJTB
村松さん:私たちが何か特別に活動を行うというわけではなく、あくまでも学校や他の組織の橋渡しを行っているんですね。
一つの組織ではすべてのことができないので、具体的なインパクト(効果)を生むためには大抵はパートナーシップが必要です。
できるだけ多くの出会いのきっかけ作りをさせていただいて、あとは自然に拡がっていけば良いなと思ってます。
一つの物事に対し、様々な角度から考えることが大事だと思うんです。
これからの社会を担っていく方にはいろいろな見方、考え方があることを伝えたい。
その思いのもと、できるだけ多くの人に講演いただく機会を設けるようにしています。
3.『17 GOALs PROJECT』を行った学校の反応
ー実際にプロジェクトに参加した学校について、お聞かせ頂けますでしょうか?
村松さん:2020年にスタートしたばかりのプロジェクトなので、参加頂いた学校は全部で4校。生徒さんの発表会まで行えた学校はひとつです。
ただ、どの学校でも、生徒さんからは積極的な姿勢が伝わってきました。
▼宇都宮海星女子学院 中学校 高等学校
村松さん:宇都宮海星女子学院 中学校 高等学校では、2020年2月にプロジェクトが開始して、2021年3月の発表会には、私たちも参加させていただきました。
NGOさんの講演後、「質問のある人はいますか?」と声をかけると、生徒が積極的に挙手してくれて、学校の先生方も驚いていました。
プロジェクトの締めくくりとして、課題解決に向けたアイデアの発表も行われました。
貧困問題解決のため、フェアトレードのコーヒー豆を個人が購入して途上国を支援する制度を考えた生徒も。
生徒たちの柔軟な発想に、改めて感心しました。
村松さん:各校では、ジャパン・プラットフォームの顧問でもある村尾信尚氏との座談会も行われました。
関西学院大学(かんせいがくいんだいがく) 教授
「NEWS ZERO」元メーンキャスター
1955年岐阜県高山市生まれ。1978年に一橋大学経済学部卒業後、大蔵省(現財務省)に入省。外務省在ニューヨーク日本国総領事館副領事、三重県総務部長、大蔵省主計局主計官、財務省理財局国債課長、環境省総合環境政策局総務課長などを経て、2002年退官。2003年10月より関西学院大学で教授職に就く。
2006年10月から2018年9月まで「NEWS ZERO」(日本テレビ系列)メーンキャスターを務める。
2019年10月より特定非営利活動法人ジャパン・プラットフォームの顧問に。
現在は中央省庁・在外公館・地方自治体勤務やNPO活動等での豊富な経験を踏まえ、幅広いネットワークを形成しながら、政策提言・教育研究・情報発信を行う。
▼立命館慶祥中学校・高等学校
村松さん:参加した生徒に感想を聞いてみたのですが、最初は先生に言われたから、なんとなく出席していただけだったそうなんです。
それが、話を聞いているうちに
「来て良かった。教室に戻るとさっきの僕と同じように無関心の友達がいる。彼らにも自分の感じたことを伝えたい」
と、社会に対する意識が大きく変わっていて、はっとさせられました。
4.『17 GOALs PROJECT』のゴールとは
ー17 GOALs PROJECTの目指すゴールとは、何なのでしょうか?
村松さん:私たちはつながるきっかけなんです。
SDGsに向けた活動を一緒にやる仲間として、業界も世代も超えた、縦にも横にもつながれるような場の形成を目指したい。
ゆくゆくは、プロジェクトに参加した学校同士の交流も生まれて欲しいと考えています。
私たちが主導しなくても、生徒が主体となって交流の場を広げ、議論をぶつけて一緒に成長できるような環境になれば、一番いいですね。
村松さん:環境問題に関しても、表面的に考えるのではなく、なぜそれが問題になるのかというところまで悩める人材になって欲しい。
例えば異常気象による豪雨で近所の川が氾濫する可能性があるというように、自分事化して考えられるようになれば、もっと行動に移せるようになると思うんです。
及川さん:このプロジェクトでJTBとジャパン・プラットフォームが取り組んでいることは、出会いの演出に過ぎないんです。
それは中学生・高校生とNGO団体だけでなく、プロジェクトに参加した企業やNGO団体同士も含まれます。
そうした交流を通して一緒に成長し、社会が抱える課題の解決に向けた動きが、世の中全体で起きて欲しいと思っています。
及川さん:大人が積極的に生徒に働きかけることもなるべくはしない。講演する方も「この問題に対して何ができる?」といった問いかけしかしません。
生徒が自分達でやりたいことを見つけ、大人はその活動を支援する側に回る。生徒たちはそのなかで、アイデアを考え、実現を目指して行動していく。
途中で失敗しても良いと思います。発想を行動に移すサイクルを繰り返しながら、将来的に社会を背負うリーダーとして育っていって欲しいです。
5.『17 GOALs PROJECT』が目指す未来
村松さん:結局SDGsを勉強したり、(理論に)詳しかったりすることが立派なのではなく、行動に移してこそと思います。
「Think Globally、 Act Locally(地球規模で考え、身近なところから行動せよ」という考えがあるんですけど、その通りで。
いきなり世界規模の活動をするのは難しいですよね。だから、ビニール袋を洗って繰り返し使うとか、身近な積み重ねを行おうという気持ちが大事。
私自身も以前より心がけるようになりました。
大きな社会問題にいきなり立ち向かうのではなく、「自分は、こんな社会に生きていたい」と考えるのが第一歩につながると思います。
及川さん:最終的には、私たちが取り組んでいるようなプロジェクトがなくなるといいな、と。
SDGsって、日本でも最近認知度が拡大していますが、例えば北欧やオーストラリアでは、持続可能な社会形成に対する取り組みは日常のこととして実践されています。
歴史的・文化的に自然を大切にする考え方が受け継がれている。そういう背景もあって、自発的に取り組みが進んでいるのかもしれません。
寄付やボランティアといった社会貢献が当然になれば、17 GOALs PROJECTのような働きかけも必要なくなる。それが理想的な社会の在り方なんだと思います。
17 GOALs PROJECTについて:
▼ジャパン・プラットフォーム
▼JTB
ジャパン・プラットフォームについて:
▼ジャパン・プラットフォーム公式サイト
▼ジャパン・プラットフォームの活動
JTBについて:
▼JTB公式サイト
▼JTBグループのSDGsへの取り組みについて
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